現代麦から戻って来るとホッとする古代麦100%でのパン焼き。今週は存分に古代麦と親しみました。
フォルコン=古代パン 日曜日は「酸っぱい古代パン」を焼きました
古い品種、在来種とか古代品種などと呼ばれていますが、一般論としては5千年以上前から自生していた野生種という事になっています。もっと古い1万年以上前からつづく超古代品種と比べれば、今の小麦に近いのですが、それででもやはり十分に「全然違う麦」です。
この麦の詳しい話はネット上に溢れる情報に譲りますので興味のある方は調べてみてください。キーワードは「Dinkel」。現代においてこの収量の少ない品種の栽培によって生計を立てるのは厳しく、こういう麦を育ててくれている生産者には頭が下がります。
パンの話に戻ります。ご来店下さった初めてのお客様はきっと、そのパンの見た目に驚かれたことでしょう。店主が好き好んで過去に何度も焼いているこの「古代パン」は、現代のパンとはあまりにもかけ離れています。味の面でいえば濃い。うまみが強すぎてわずかに苦みすら感じるほどです。この麦を粒のまま石臼で挽いてすぐに仕込むことで強烈に酵素分解が始まり、パンの形を保つグルテンが解けるまで約1週間もの時間を費やして熟成を進ませて旨みを引き出しています。もちろん、本当の古代には温度管理もできないわけですから、こんなにうまいパン(旨みの強いパン)は焼くことが出来なかったはずです。
硬そうに見えて水分が多いので数日はそのまま楽しめると思います。このパンをもっと厚みを持たせて焼くことも可能ですが、ここまでの旨みは引き出せません。日曜日には「酸っぱい古代パン」も焼き、ライ麦パンの替わりのパンとして試食をご用意したうえで提案させていただきました。
酸っぱい古代パン
日曜日にだけ臨時で焼いたこのパンは全く同じ原料を使って「味も香りも形も膨らみ方も違うパン」として焼きました。「古代パン」はペッタンコ。「酸っぱい古代パン」は丸く大きく膨らんだ形です。両者の味個性はガラッと変えていますが、あくまでも材料は同じ。発酵と熟成と酵母の扱いなどを管理することでパンを変えています。作り手としては「古代麦でも膨らんだパンは焼ける」という事実も示しておきたかった。また、「麦+水+塩だけの野生酵母パンは、酸っぱくもできるし、酸っぱくなく焼くこともできる」という大事な真実も、同じ日に2つ並べることで体験してもらいたかった、という理由もあります。ベースのご常連さんにとってはもはや当たり前のことですが、広い世間の通念としては誤解が常識となって固まったままです。「天然酵母=酸っぱい」という誤解を解す仕事もまた、パン屋の仕事だと思っています。
臼にも優しいのに厳しい麦
古代麦は石臼にも優しく、栄養価も優れていて、香りも味も良い、まるでいいことずくめなのですが、一方では扱いが難しくて栽培は辛く、そのために価格は高くて入手も困難、BIO(オーガニック)ともなれば、とんでもなく生産量の少ない麦です。定番で焼き続けられるような麦ではないところが惜しまれます。
品種改良の極みである大きく膨らむことに特化した現代の小麦より、どうしても魅力的に見えてしまって、いっそのことBIOの古代麦だけでパンを焼き続けるのもいいのではないか、とさえ考えてしまいます。コロナの影響を受けて当面手に入りませんが、もう少しだけベースベーカリーの在庫があるので年内に使ってみたいです。
イチジクとクルミと
いわゆるフィグノアにゆずを添えました。フィグはパンのどこを切っても必ず顔を出すように、たくさん詰め込みました。今回、イチジクを生地に練りこむことをやめたので、プチプチとした種の食感も楽しく、見た目にもしっかりと固形のイチジクが確認できるパンとなりました。クルミは独特な土臭さのあるオーガニックを選びましたが、いちじくはオーガニックを選びませんでした。果肉の柔らかさ、香り、ほかの要素も含めてのマッチングです。そして今後、またクルミを別のものに切り替えます。輸入される食材も常に動きがあり、パッケージが同じでも海外の製造元が変わったり、虫があったり、カビていたり、香りが落ちたり、逆によくなったりと変動しています。今はどれを選ぶべきかを考えながらのフィグノアでした。