北海道ピリカアマム、中川農場の新小麦「ノア8/コア」によるフォルコン。
ベースベーカリーが一年で最も心待ちにしている小麦です。
【ごあいさつ】
まず始めに、この麦について誤解を招かぬように発言したいと思います。ノア小麦はベースベーカリーにとって、筆舌し難い価値と意味を持っているため、どうしても説明にはチカラが入ってしまいますが決して一般受けする麦(よく膨らんで、使いやすくて、パンが日もちする麦)という訳ではございません。
「食材のどこに価値を見出すか」、それは料理人によって十人十色の答えがあるでしょうし、そうあるべきです。そして、縁あって作り手自身が「価値を見出せる食材」に出会った時に、その「制限」の中で試行錯誤する意味が生まれてきます。食材のクセやモノ足りない点を「仕方ない」とあきらめるのではなく「個性」として捉えて活かそうとする時、他者を感動させることができるような新しい「豊かさ」が生まれてくるのではないかと考えます。
世界各国からの優良食材に恵まれ、使わせて頂けているベースベーカリーが最も感動した食材。それは後にも先にもピリカアマムの麦でした。小麦粉を一切買わない「完全自家製粉」という誰もが選ばない険しい道のりへの後押しも、あの大地からのエネルギーが支えてくれています。
あと何回焼けるのか分からない稀少な麦との縁に感謝しつつ、この場を借りて改めてピリカアマムの生産者さんにお礼を申し上げたいと思います。https://pirkaamam.com/
【パンについて】
当日、翌日はそのまま、トーストせずに、断面に鼻を押し付けながら、香りをすべて嗅ぎ取る様に食べて欲しいパンです。ツイートしたとおり、スライスの厚みは「厚め」がおすすめです。
収穫されたばかりの麦は大地の香りをまとっています。こんなことを言うと「ノスタルジーが過ぎる!」と叱られそうですが、本当です。この事実を知らない人は、そういう麦に出会っていないだけです。今回、ベースベーカリーに到着してすぐに精麦を開始し、翌日に石臼製粉をして仕込みました。鮮魚をさばくように、鮮度を落とさない努力に徹しました。夏の間は穀物管理も含めて工房内は空調がつきっぱなしですが数ヶ月間はリモコンの「切る」を押さないという決意も、食材を守る大事な技術です。
粒の入っていた袋を開けた瞬間に湧き上がる新麦の香り、土、草を連想させるこの香りをどれだけパンに持ち込めるか、それが恒例の大テーマです。窯で焼くという工程でどうしても工房はパンからの麦の香りに満たされてしまって、外の道路まで良い香り。。。「ああ、、パンから香りが逃げている」と残念な気持ちになりながら「早く焼けろ」無駄に念じてしまう愚かな姿もまた、毎年の恒例です。
結果として、今回は良い香りが残ってくれたと一安心しています。販売当日、作り手自身も皆さんの列に参加させていただいてゲットしたパンを、連日の変化を観察しながら頂いています。「ノア8コア」、皆さんはどんな印象を抱きましたか。感想を寄せて頂けると、生産者さんと私の励みになります。
【食感】
皆さんが体験しているパンの食感=もちもち、プルプル、というものにはグルテンが大きく作用しています。このパンはそれが弱いことに気づいていただけたら大変嬉しいです。水分が多く、断面がピカピカしていることとは別です。表現が難しいですが咀嚼していくと、自然な速度で口の中からパンが消えていくような感じ。強すぎない弾力の生地は手でちぎっても、ほろっと、ほどけるように千切れる生地です。ピリカアマムの穀物全般に共通するのが、優しい食感、正しく表現をするならば自然界が選んだ「自然な食感」です。
この食感はトーストしても変わることはありません。21日に販売していますので、今日あたりからがトーストもおいしい頃合です。
【風味】
大地の香りの麦粒がパンに化けて、香りの質も変わりました。「麦芽」や「みたらし」の様な甘い香りです。あと半年もすれば、この麦の香りも減って来ます。そういう意味においては、香りがピークのうちに在庫がなくなって使えなくなる麦というのは、皆さんにとっても良いのかもしれません。もっとも香りの乗っている「収穫したて」の次期だけにしか食べられないということですが、作り手としては扱えるチャンスが少なすぎて、勉強不足のまま翌年に持ち越される感があります。
このパンに合う食材を紹介したいのですが、正直なところ、この香りと味で食べ進めてしまっています。チーズやハムなどの油脂を多く含む香りの強い食材よりも、大地に近い食材が合うと思います。野菜やハチミツ、美味しい水を飲みながら楽しんで頂けたら嬉しいです。